昔から内気な性格の私は、出会いの場なんてほとんどなく、同僚からの合コンのお誘いにも乗れませんでした。社内恋愛に少し期待していた時もありましたが、ドラマのような恋はなく、ましてや自分から声を掛けるなんてハードルが高すぎて、結局ただ坦々と仕事をこなすだけの日々です。
気付けば彼氏いない歴25年。いや、もう私には彼氏なんてできなくていいのかもしれません。それよりもっと大事なものが私にはあるから・・・
何よりも大切なもの
仕事が終わり、帰りの電車ではいつものようにスマートフォンとにらめっこ。隣の人に見られないように画面はなるべく暗くして、Twitterを開いた。
(やった!推しキャラのグッズ、再販されるんだ!あ、あのアニメ2期も放送決定!?待ってましたー!)
彼氏よりも大事なもの、それはアニメでした。好きなアニメや、グッズ情報は毎日欠かさずチェックし、忘れずコメントも投稿!同じ趣味の人と熱く語り合う!これが私の人生最大の楽しみだったのです。
学生時代は、朝起きてアニメ、授業の合間にアニメ、帰ったらアニメ。現在も、休憩中や仕事終わりはアニメのことばかり。ただ、「アニメオタク」と思われるのが恥ずかしくて、会社ではなるべくアニメの話は避けています。私が唯一好きなことを熱く語れる場所がTwitterなのです。
一歩を踏み出すきっかけは・・・
Twitterをはじめて3年。今日もいつものように最新情報をチェックしていました。
『この夏、期間限定!待望のアニメカフェ。OPEN!!』
(アニメカフェ?・・・なるほど、アニメに出てくるカフェを現実化しているんだ。行ってみたいなあ。)
そんなことを考えていたちょうどその時、昨日投稿したコメントに返信がきました。いつも返信をしてくれるフォロワー、シンさんからでした。
「僕もそのアニメ大好きです!今度のアニメカフェ、一緒に行きませんか?」
実際にあったこともない人。それだけで少し不安ですが、私はあることがきっかけで、SNS以外でほとんどアニメの話をしたことがありませんでした。
高校1年生の夏、だんだん友達も増えてきて楽しくなってきた頃、私は大好きなアニメキャラの話を最近できた友達に話していました。夢中になって話していた私は、友達が飽きてきたことに気付かず、ため息が聞こえてくるまで喋り続けていました。友達に引かれてしまったのです。それからというもの、あまりアニメの話をしなくなりました。
またあの時みたいに引かれないかな?せっかくできた友達が離れていかないかな?
いや、これはチャンスだ!社交性のない私を変える、最大のチャンスだ!
こうして私は、シンさんと会うことになったのです。
いざ待ち合わせ!!
「私の服装は、白いシャツにピンクのスカートです。今日はよろしくお願いします」
「いいですね!あ、もしかしてキャラクターをイメージした服ですか?僕のは、白い服に黒のパンツです!もうすぐ到着しますね!」
待ち合わせの駅に30分も前に到着した私は、心臓が飛び出しそうなほど緊張していました。硬いメッセージを送ってしまったことを後悔しましたが、推しキャラをイメージした服が伝わり、少し安心しました。
えーっと、白い服に黒いパンツ・・・いっぱいいるなあ。
見渡しただけでも3人はいましたが、そのうち1人、10メートル程離れたところから、私に手を振って、小走りでこちらへやってくるのが見えました。3メートルほど手前で、「お待たせしてごめんなさい!シンです。」
少し高めな透き通った声で、愛嬌のある話し方。その一言だけで、コミュニケーション力が高いとわかるほどでした。
簡単に挨拶をし、今日も暑いですね、といったよくある会話をしながらアニメカフェに到着しました。
本当にアニメの世界にいるような店内で、お互いの好きなキャラクターについて語り合いました。真剣に私の話を聞いてくれて、くだらないことでも笑ってくれる彼のことを、もっと知りたいと思うようになったのです。
楽しい時間は本当にあっという間でした。
帰りの電車がやってくる3分前、シンさんに「また来週あたり、ご飯行きませんか?アニメ以外にも、もっとお話ししたいです」と、さっきとは違い、少し真剣な顔で言われました。
初めてそんな言葉をかけられたので、どう答えていいのか分からず、「あ、はい・・・はい!」と、戸惑いながら返事をしました。そのやり取りがぎこちなくて、2人は笑いながらホームで別れました。
SNSで知り合った人と付き合うなんて怖い。
今でもたまにそう言われることがあります。ですが、SNSは社交性のない私を変えてくれて、あの出会いが人生までも変えてくれました。今はシンさんと幸せな家庭を築いています。
youko.k著